かくれがデンキース (001) 〜 (010)
風紀委員に首輪を注意されたヨミは隠れ家で電気椅子を怖がる。それはデンが幼い頃誤動作して記憶を失った椅子だ。
- (001) スキンシップ不足
- (002) 読み聞かせの秘訣
- (003) 先生を独占したい
- (004) ヨミのカエル好き
- (005) はじめてのビール
- (006) 冬囲いにドキドキ
- (007) 許せぬヨミの首輪
- (008) 帰寮遅いヨミの噂
- (009) 幼い頃の記憶喪失
- (010) 隠れ家の電気椅子
(001) スキンシップ不足
「こんなことを言うと傷つくかもしれないけど、あなた幼い頃のスキンシップが足りてなかったんじゃないかしら?」
「えっ……」図星だった。ヨミは共働きの両親が買い与えてくれる絵本が楽しみだったが、本当は甘えたかったのだ。
「お迎えのとき、あなたいつも物欲しそうな顔してるわよ。母親に駆け寄る子供たちが羨ましいんじゃないかしら?」
ヨミは保育実習を思い出す。指導者のデンからそういう目で見られていたのかと思うと恥ずかしくなり顔を赤くした。
「さあおいでヨミ、あの時の分まで私が可愛がってあげる」ヨミは隠れ家でデンの愛情をたっぷり受けるのだった……
(002) 読み聞かせの秘訣
「あなたが絵本を読み聞かせすると、いつも子供たちが目を輝かせて物語に夢中になるわね。何か秘訣でもあるの?」
集中力がない子や動き回る子もいるけど、不思議とヨミの読み聞かせだけはじっとしているのがデンは不思議だった。
「紙芝居屋さんに夢中だったという祖父の受け売りですが、やはり抑揚と間合いでしょうか、少し大げさなくらいに」
絵本は目の悪い祖父が頑張って読んでくれた。亡くなった祖母がヨミに読み聞かせするのを楽しみにしていたという。
「なるほど、今は淡々と読む人が多いのかもね。じゃあ私もヨミの心と体をアメとムチでトリコにさせてあげるわ!」
(003) 先生を独占したい
「先生は誰からの相談でも隠れ家に連れ込んであんなことしてるんですか?」デンと長話する他の学生をヨミは見た。
「安心して、今はあなた一人よ。もちろん卒業生で隠れ家の場所を知ってる人はいるけど合鍵がないから入れないわ」
「そう、それならいいけど……デン先生には私だけを愛してほしいです!」あら引っ込み思案なヨミにしては珍しい。
「どうしたの? そんなに独占欲が強いと私たちの関係を他の誰かに知られちゃうわよ? 少し自制が必要みたいね」
「ご、ごめんなさい、お姉様。ヨミはどんな厳しい罰でも辱めでも受けます。どうか出過ぎた真似をお赦しください」
(004) ヨミのカエル好き
「こっち来ないで! いったいカエルなんかのどこがいいのかしら? アンビリーバボー! ああっ、気持ち悪い!」
常にでんと構えているデン先生が目の前のカエル一匹に狼狽えている。カエルは今しがたヨミが捕まえてきたものだ。
「どうしたんですか先生? カエル可愛いですよ? ほらもっとよく見てくださいよ?」すっかり攻守逆転している。
ヨミはカエルが大好きで部屋や持ち物はカエルグッズだらけ。子供たちとよくカエルを捕まえて遊んでいるくらいだ。
「いい加減にしなさい! わかった、わたしが悪かった! もうカエルの解剖ごっこなんてしないから! 赦して!」
(005) はじめてのビール
「あっ熱い!」「たまにはこういうのもいいでしょうヨミ?」「もっといっぱい食べさせてください!」「いいわよ」
真っ赤に燃える炎を浴びて金網から余分な脂が滴り落ち、煙が辺り一面に立ち込め、二人は肉欲にまみれる。焼肉だ。
「そしてビール!」「私お酒はまだ……」「何言ってるの、20歳になったんでしょう? さあ飲むわよ、とことん!」
「苦い……それになんだかクラクラします……」「ヨミはお酒に弱いのかしら? あまり無理して飲ませてはダメね」
デンはMが望まないことはしない。飲酒も無理強いはしない。だがデンは酔い潰れるまで飲みヨミを大いに困らせた。
(006) 冬囲いにドキドキ
「先生、何してるんですか? 木を縄で縛ったりして、こんなところまでSMするなんて、気色悪いんですけど……」
「ふふっ、ヨミは北国の暮らしを知らないのね? これは冬囲いよ。雪の重みで木の枝が折れないようにしてるのよ」
ほらよくご覧なさい、と辺りを見回してみると、紅葉も過ぎて枯葉が舞うなか、学園の木々はすっかり囲われていた。
そんな中、理事長の銅像がブルーシートでぐるぐる巻きにされているのを見つけて、ヨミはあらぬ妄想をしてしまう。
「あらまあ、この子ったら……こういうことしてほしいの? ヨミにはキャットスーツも似合うかもしれないわね?」
(007) 許せぬヨミの首輪
「キカセさん! なんなのその首輪は? すぐに外しなさい!」「あの、私には外せないんです、ごめんなさい……」
風紀委員のエリがヨミの首輪を掴むが、南京錠がかかっていた。ヨミの首が絞まり苦しむ姿を見てエリは手を放した。
「どうかしたの?」「保育士を目指す人がこんなふしだらなものを、許せません!」「ただのチョーカーじゃない?」
デンはヨミに指図してニャンニャンと猫ポーズをさせた。「こうすると子供にウケるのよ」「ふーん怪しいなあ……」
風紀委員が立ち去りひとまず事なきを得たが危なかったと胸を撫で下ろした。服従の証を求めたのはヨミだったのだ。
(008) 帰寮遅いヨミの噂
「あの子最近変わったよね」「キース先生と仲いいよね」「あいつ寮に帰ってくるの遅くね?」「もしかして彼氏?」
そんな噂が立ち始めていた。ヨミが頻繁に隠れ家に出入りするようになってしばらく経つ。日常を侵食し始めている。
「勘がいい人はそろそろ隠れ家に気づき始めるわね……後をつけられないようにヨミに言い聞かせないといけないわ」
デンの実家は居酒屋で、その離れが父の遺した隠れ家だ。庭木に囲われ周囲からは見えず、常連客も知らない場所だ。
父が居酒屋を始めた矢先に急逝し母に女手一つで育てられたが再三悪さをして隠れ家に閉じ込められたことがあった。
(009) 幼い頃の記憶喪失
デンは幼い頃の記憶であいまいな部分がある。物心がついていなかったわけではない。記憶喪失したことがあるのだ。
再三悪さをして父の隠れ家に閉じ込められた時の記憶は、後に母から聞かされた話をただ覚えているだけに過ぎない。
「お母さんごめんなさい!」当時鍵は内側から開かず泣きじゃくるデンを置き去りにして母は居酒屋に戻っていった。
数時間後に鍵を開けた母は喚き叫んだ。埃を被った骨董品の中でデンは電気椅子からずり落ちて気を失っていたのだ。
電気椅子は通電状態のまま放置され誤作動したようだ。感電したデンは一命をとりとめたが前後の記憶を失っていた。
(010) 隠れ家の電気椅子
「電気椅子って今でも死刑執行に使われているものですよね? これって本物なんですか?」「まさか! 模造品よ」
デンはこれが人を死に至らしめる危険性がある物だと身をもって知っていたが本物だとは口が裂けても言えなかった。
救急搬送された際、母は感電の原因について本当のことを言わなかったようだ。目を離した隙に子供が悪戯をしたと。
多忙な母はあの日の出来事を隠れ家ごと封印した。そうして処分されずに放置され埃を被ったものがこの電気椅子だ。
「先生?」ヨミの手が目の前を上下する。「何でもないわ。ちょっと座ってみましょうか」「嫌だなあ、怖いよ……」