レコーディング・テクニカル・ノート

 「GM-ZERO」に収録した全27曲のBGMのMIDIデータは、既に半年以上もの間ステイリゼルのホームページで公開されているものであったため、CD収録にあたって音質面でMIDIデータとの差別化を図る必要がありました。
 そこで、「GM-ZERO」という業務用基板が存在したと仮定して、あたかも基板から出力した音声にエフェクトをかけて収録したサウンドトラックに聞こえるように音作りを進めていくことにしました。
 このページでは、エディア・レーベルとしてはかつてない複雑な作業工程となった「GM-ZERO」のサウンドトラックが、どのようにレコーディングされたか?について詳しく解説します。

(0) 最初のレコーディングがボツになった

 「GM-ZERO」という企画は、冬コミの新作として候補に挙がっていた3タイトルの中で、当初は一番プライオリティーが低く考えられていて、ぶっちゃけた話“滑り止め”用としてスタートしたんです。
 曲は既に完成済みだったので、後はステイリゼルの時と同じ手順で録音して、ジャケット作ればパッケージになると、そんな甘い考えで11月末に最初のレコーディングを行いました。
 ところが、12月に入って、時間的な都合から「FM音源POWER」の新作を断念せざる得なくなり、もうひとつのゲームの方も動作上の問題点が浮上して制作が一時的に棚上げ状態となったことで、急遽「GM-ZERO」が目玉となることになったのです。
 そしてそのレコーディングしたデータを改めて聴いてみたところ、数分後、あえなくボツ決定となりました。ボツの理由は、リバーブがかかりすぎていて音像がぼやけて奥まってしまっていたためです。
 ステイリゼルと同様に、ZOOMのマルチエフェクターRFX-300のミックスダウンエフェクト(BOOST MIX)をかけているのですが、このエフェクト自体がリバーブも含んでいるため、このような結果になってしまったようです。
 そして、はじめに書いたような方針が固まり、レコーディングは再出発となったのです。まさにタイトル通りZEROからのスタートです。

(1) MIDIデータの編集

 さて、作業開始です。頭の中で綿密に練った計画通りに作業が進められていきます。
 まずは、メロディーが2回ループした後にフェードアウトできるようにするため、シーケンスデータをコピー&ペーストして、ループ回数を3~4回くらい、なるべく余分に長く増やしました。
 また、今回は基板の音を露骨に再現するために、コントロールチェンジの91番、リバーブの値を全て「0」に設定しました。コントロールチェンジの93番、コーラスの値はそのままです。

(2) PCに48kHzで録音

 録音用PCのサウンドカードがCreativeのSound Blaster Live! Platinumなので、DATと同じ48kHzというサンプリング周波数で録音しました。使用した波形編集ソフトは、Sonic FoundryのSound Forge 5.0です。
 その際に、アナログミキサー(MACKIE. 1202-VLZ PRO)を音源とサウンドカードの間に挟んで、イコライザーでより基板っぽい音に聞こえるよう、高音域をブーストし、中・低音域をカットしました。
 録音したら前後のノイズをカットして、フェードアウトの曲はノイズが聞こえなくなるようにうまくフェードアウトをかけ直します。終わったら、前後に1秒ずつ無音部分を作ります。

(3) 24kHzにリサンプリング

 基板の音という事で、いかにもサンプリング音源で演奏しているように音質を変えてやる必要があります。最近の基板は音質が良くなりましたが、ちょっと前までは家庭用ゲーム機以下…なんて機種もありましたね。
 それではどうするのかというと、方法はふたつあって、ひとつはビットレートを8bitに変更する、いわゆるビットを落とすという方法、もうひとつはサンプリング周波数を変更する、リサンプリングという方法です。
 ビットを落としても音がちょっとくぐもったくらいであまり変わらなかったので、ここでは後者のリサンプリングという手法を選択しました。
 どうもサンプリング周波数を低くする場合は、正数で割り切れる値に設定すると音が変にならないようなので、1/2の24kHzに設定しました。オープンハイハットの音がかなり変わって、SC-55のような音に変わってしまいました。

(4) エンハンサーをかける

 エンハンサーは高域の成分を増幅して輪郭のはっきりしたサウンドにするエフェクトです。
 サンプリング周波数が低いということは、高音域が狭くなっているという事なので、この状態でエンハンサーをかけると高音がおしくらまんじゅう状態となり、ギスギスとした音になってきます。
 今回はこういう効果を狙ってかけていますが、パラメーターは「+1」で、あまり耳が痛くならないように気を配りました。
 これで基板から直接鳴らしたような音になりました。

(5) 44.1kHzにリサンプリングし、CD-Rに焼く

 (3)でリサンプリングしたばかりですが、またリサンプリングです。今度は、CDのサンプリング周波数である、44.1kHzにリサンプリングします。サンプリング周波数を高くする分には音質はあまり変わりません。
 では、なぜこのようなことをするのかというと、それはCD-Rに焼くためです。CD-Rで音楽CDを作成するためには、必ずサンプリング周波数を44.1kHzにしなければなりませんので、それに従ったということになります。
 使用したライティングソフトはBHAのB'sRecorder GOLDです。(6)の作業で使用するので、音質を重視して等速で焼きました。

(6) エフェクターでリバーブをかける

 焼き上がったCD-RをCDプレーヤー(SONY CDP-997)にセットして、ZOOMのマルチエフェクターSTUDIO 1201で、曲の雰囲気に合わせたリバーブを、1曲1曲セレクトして適量かけ、再びPCに録音しました。半日作業になりました。(^_^;
 この時は、サウンドカードから来るノイズを避けるため、エフェクターの出力をMDレコーダー(SONY MDS-S39)に入力して、AD-DAモードでデジタル出力したものを、オプチカルでサウンドカードに入力して録音しています。
 リバーブは、そのほとんどがBANK Aのいずれかをかけていますが、1曲だけBANK Bのフランジャーとリバーブの直列エフェクトをかけています。さて、その曲はどれでしょう?

(7) フェードアウトを作成する

 (1)同様にノイズをカットしたら、無音部分を作る前にフェードアウトを作成します。フェードアウトは一部の曲を除いて、メロディーが3回目のループに入ってすぐのところから約10~12秒としました。
 フェードアウトが上手くいかないという人にちょっとしたヒント。ループに入ってすぐのところではありますが、1拍目からではなく、半拍~1拍後からフェードアウトを始めると不自然さがなくなるようです。

(8) ボリュームを調整する

全29曲の波形を読み込んだ、いつ落ちてもおかしくないSound Forgeの画面
↑クリックすると大きな画像(PNG形式)が表示されます。

 いよいよ大詰めです。ボーカルアレンジバージョンを含めた全29曲を波形編集ソフトに読み込み(写真参照)、前後や全体のバランスを考えながらボリュームを調整していきます。これだけ開くと、いつPCが落ちるか不安でした。(^_^;
 基準のボリュームが決まったら、聴かせたい曲と聴き流したい曲で山と谷を作って行きます。山と谷といっても、そんなに極端なものではなく、あくまで数dB程度の違いですが、かなり効果があります。
 この時、ボーカルアレンジバージョンの音質がサウンドトラックの音質と比べてちょっとシャープさに欠けていたので、パラメトリックイコライザーやパラグラフィックイコライザーで音質を調整しています。

(9) 試聴

 ここでダメならもう一度最初からやり直しになるのですが、大概そんなことはないはず…でしたが、今回は一度そういった理由で再出発しているので、かなり念入りにやる必要がある工程であるといえます。なんたって最終工程ですからね。
 実際にCD-Rに焼いて試聴する前に、ふみぃ氏のフリーウェアのTMIDI Playerで再生して、ちゃんと1枚のアルバムとして聴ける状態かどうか確認して、それからCD-Rを焼くようにしています。
 なぜTMIDI Playerなのかというと、フォルダ再生が出来るのと、次の曲を再生する際に読み込みの時間がかからないので、CDを聴いているのと同じ状態が手軽に再現できるからです。WAVE再生機能はおまけだそうですが、とても感謝しています。
 今回作業で使ってきたモニターヘッドホンはFostexのT50RPなので、以前使っていたVictorのHP-DX1でも確認します。これがなかなか怖いもので、T50RPよりHP-DX1の方がレンジが広いので、とんでもない音が出てしまうこともあるからです。
 今回は幸い、各曲のリバーブの違いがあまりハッキリしなくなったくらいで特におかしな点はなく、この時点では合格ということで、CD-Rに焼いてラジカセでチェックすることにしました。ここが執筆時点なのでまだ完成していないんですね。(^-^;
 まあ、ラジカセ等で鳴らしたところでダメ出しをすることはあまりなく、あくまで参考程度にバランスを確認するために試聴します。これで納得のいく出音であれば、胸を張って即売会で頒布出来るというわけです(笑)。

聴き比べてみよう!

 最後に「XX. It Comes Out Suddenly [戦艦接近デモ]」をサンプルに、各工程で出来上がった音をMP3で聴き比べてみることにしよう。


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