原作小説

 ※作品中の登場人物、超時空戦闘機、およびディーヴォ軍の設定は1998年当時のものです。


- 1 -

 ものすごい勢いの光と振動が辺り一面に広がった。

 要塞を構成していた機械や細胞の欠片が四方八方に飛び散り、その形は一瞬にして粉々になった。

 その中から、猛スピードでエスケープしてくる2機の超時空戦闘機、ビックバイパーとスーパーコブラによって、この亜空間生命体・ドゥームの超巨大要塞は完全に破壊された。

 戦いは終わった。

 グラディウスに再び平和が訪れる…この喜びを早く皆に伝えたい。

 ビックバイパーとスーパーコブラはワープ体制に入った。


 ―その時だった。

「スーパーコブラへ、背後から急速に何かが迫ってきている。ワープは一時中断だ!」

 ビックバイパーが、そうスーパーコブラに伝え、スーパーコブラが返事を返そうとしたほんのわずかな間に、そいつは現れた。

 ビックバイパーとスーパーコブラの間に割ってはいるように、そいつは突進してきた。

 そしてものすごい勢いでその場を去っていったのだ。

 そいつはかなり大きく、ビックバイパーもスーパーコブラも大破、その上衝撃で互いに連絡が取れないほどすっ飛ばされた。


 あまりに一瞬の出来事だった。

 パニック状態のビックバイパー、スーパーコブラ両機のパイロットは互いに交信を取ろうと必死になっていた。

 だが、それはあまりにもむなしく、狭いコックピットの中で消えるだけだった。

 生命維持装置が作動するまで……それは続いていた。



- 2 -

 様子がおかしい。

「ビックバイパー、ビックバイパー。こちらグラディウス、至急応答せよ」

「スーパーコブラ、スーパーコブラ。こちらグラディウス、何があったんですか?!応答してください!」

 通信士たちがしきりに両機にコールし続けるが、その応答は返ってこなかった。

 グラディウス防衛軍は今、かつてない危機感に包まれている。

 確かにドゥーム軍の侵攻は収まった。

 だがしかし、肝心のビックバイパーとスーパーコブラが帰還して来ない。通信も届いていない。

 ドゥームとの戦いが終わったかさえわからないのだ。

 何があるのか、何が起こるのかさえわからないというのに、宇宙の彼方では、我々の想像を超えた何かが起こった、そうに違いない。


「司令、周辺宙域に何かいます!」

「映像入ります!」

 突然、周囲が慌ただしくなった。

 グラディウス防衛軍の司令官ガーション・バートンは、モニターに映し出された映像に目を見張った。

「こ…これは、ヘルハウンドかっ?!」

「ヘルハウンド?…もしや、ドゥームに呑み込まれたという、別の生命体の?」

 隣の副官のテイが驚いたようにそう言うと、ガーション司令は重く頷いた。


 ドゥームが出現する少し前、グラディウスはディーヴォという亜空間生命体の出現に悩まされていた。

 ドゥームほど巨大で、恐ろしい亜空間生命体ではなかったが、ディーヴォの亜空間は開拓の進んだ惑星をいくつも呑み込み、その魔手は確実にグラディウスに迫っていた。

 その頃、まだパイロットだったガーション・バートンは、先代の命を受けビックバイパーを駆って出撃。

 最後の戦艦、ヘルハウンドまで追いつめたが、ドゥームの出現によって撤退を余儀なくされ、その後ヘルハウンドは周辺の星系もろともドゥームに呑み込まれてしまったのである。


 そのヘルハウンドが、今グラディウスに近づいているというのだ。

(復讐だ…ドゥームはディーヴォの復讐に手を貸したんだ…)

 ガーション司令は一瞬、心の中で恐怖した。

 しかし、直ちに負けていられない、負けるわけにはいかないと強く誓った。

 相手が復讐ならば、こちらはとどめを刺さねばならないのだと。

「コブラは各機出動!防衛ライン、戦艦もすべて迎撃体制をとれ!」

 ガーション司令は立ち上がり、大声で指図した。そして、後の指揮をテイに託した。

「司令、指揮を振るうのは構いませんが…まさか出撃する気じゃ?!」

 テイのその言葉にガーション司令はこう答えた。

「ヘルハウンドとの戦いは、私自身との戦いでもあるのだ」と。



- 3 -

 ガーション司令の乗る超時空戦闘機・ファイナライザーは、先に出撃した主力機コブラ編隊の後を追い、惑星グラディウスを飛び立った。

 ファイナライザーは現在開発中のスーパーコブラ2号機に当たるもので、ベクトルレーザーを装備しているが、攻撃システムユニットがまだ不完全で2段階目へのパワーアップが出来ない、まだ頼りない機体である。

 それでもガーション司令はファイナライザーを駆った。

 確かに頼りない機体だが、今ある機体の中で、最も頼れる機体がファイナライザーであったからだ。


 前線で戦っているコブラ編隊は、ヘルハウンドの予測不可能な動きに苦戦を強いられていた。

 ヘルハウンドの外装は、ブヨブヨした醜い細胞壁のようになっており、コブラのショットを全く受け付けない。

 その細胞の間からひだとも触手ともつかないようなものがいくつも飛び出していて、時折生体レーザーを撃ってくる。

 かと思えば、破壊可能な部分もあり、破壊すると細胞弾をまき散らす。

 これらのタイミングは全くのランダムで、次の攻撃が読めない。


 ファイナライザーがヘルハウンドの前に現れたときには、すでに数十機あったコブラがほんの数機までに破壊されていた。

「ひどい有様だ」

 思わずガーション司令の口からそう漏れた。

 だが、その中には仲間を殺された恨みが込められている。

 ガーション司令は強く操縦桿を握りしめた。


 ヘルハウンドは、ファイナライザーを見つけるや否や、自ら外装である細胞壁をふき飛ばした。

 細胞壁は意志を持ってファイナライザーに襲いかかり、一部は退避するコブラにも襲いかかった。

 ガーション司令はリップルレーザーでこれに応戦したが、その隙に生き残ったコブラは細胞どもの餌食となっていた。

 ガーション司令の怒りは既にマックスボルテージに達していたが、ヘルハウンドはすぐにファイナライザーに襲いかかってきた。

「やはり、コアが意志を持っているらしいな」

 ガーション司令は、ヘルハウンドの周囲を回り、弱点、つまりコアへの突破口を探った。


(おかしいな、見あたらない?!)

 ヘルハウンドは、確かに昔のままのヘルハウンドだった。

 しかし、あるはずの弱点がどこを探しても見あたらない。

 ヘルハウンドは、ファイナライザーの動きをトレースする弾を撃ちだして、焦るガーション司令を苦しめる。

 その様子を見て、ヘルハウンドはさも気分が良さそうだ。

(もしかすると、こいつは…?)

 ガーション司令は、何かを思いだして、弱点を探すのをやめた。

 そして、トレース弾の出所を探して、ツインレーザーを撃ち込んだ。

 その時、ヘルハウンドは焦りに焦ってたちまち防御態勢をとり、より多くのトレース弾を打ち出してきた。


 ガーション司令は確信した。

 ヘルハウンドは、ドゥームによって“デス”タイプの攻撃艦に改造されたのだと。

 そうなれば、話は早かった。この弱点を破壊すれば、次にくるのは拡散弾か極太のレーザー攻撃だ。

 先代の経験をふまえた勘が、ここぞとばかりに冴え渡る。

 ツインレーザーを一気にたたき込むファイナライザー。ヘルハウンドのコアの色が変わり、その部分は一気に爆発した。

 ところが、ガーション司令の予想を裏切るかのように、ヘルハウンドは一気にシステムダウンしていった。

 ヘルハウンドのゴツゴツした金属の外装も同時にはがれ落ち、大爆発とともに粉々に砕け散った。

 コアの色は赤。見るからにヘルハウンドは“終わり”だ。


「なんだ、あっけなかったな」

 ふぅ、と軽く息を吐いて緊張を解きほぐしたガーション司令。

 目の前には、破片と化したヘルハウンドが宙を舞っていた。

(いやまてよ、破片にしては大きすぎるものが…)

 ―その時!!

 コアのあたりからいきなり極太レーザーが発射され、ものすごい勢いでファイナライザーに向かってきた!

「し、しまった!!」

 あわててフォースフィールドを展開するが、ガーション司令の目の前にはすでに蒼く不気味に輝くレーザー光線があった。もう、絶体絶命である!!


(なんだ…?)

 気がつくとファイナライザーもガーション司令も無事無傷で、ただ一つ気になることは、フォースフィールドではなくベクトルレーザーを発射していたという事実である。

「まさか、ベクトルレーザーなんかが極太レーザーに打ち勝ったのか?」

 驚きを隠しきれないガーション司令だったが、確かに目の前のヘルハウンドはかなりのダメージを負っていて、よく見るとコアは青と赤の点滅状態になっていた。

 相手はもう、システムダウン間近である。

「よし、とどめだ!!」

 ファイナライザーは、装備している4つのオプションをすべて点滅させ、一気にヘルハウンドめがけてオプションシュートした。

 4つのオプションすべてがコアに命中し、瞬く間にヘルハウンドのコアを破壊。大爆発を起こし、宇宙の塵となって消え失せた。

(これでドゥームのすべてが滅んだならよいのだが…)

 ヘルハウンドを倒した事に喜びを感じる暇もなく、ガーション司令はヘルハウンドの来たルートにファイナライザーを飛ばした。

 ビックバイパーとスーパーコブラの無事を祈って…


「こちらガーション=バートン、グラディウス応答せよ」

「こちらグラディウス、司令、ご無事ですか!?」

「テイか?私は無事だ。ビックバイパーとスーパーコブラを発見したが、機体は大破しており、コックピットは生命維持装置が作動している。非常に危険な状態だ。すぐに増援を要請したい」

「了解しました。直ちに回収に向かいます」

 グラディウス防衛軍の司令官であり、元ビックバイパーのパイロットであったガーション=バートンの活躍により、亜空間生命体“ドゥーム”は完全に滅んだ。

 ヘルハウンドの奇襲から、生命維持装置で一命を取り留めたビックバイパー、スーパーコブラの各パイロットは、回復後“ドゥーム”の超巨大要塞を破壊した功績を讃えて、グラディウス中の人々から祝福を受けた。

 そして再び、この惑星グラディウスに永い平和の時が訪れる……


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